
カナダの高校を卒業した後、どこの大学に進むか——この問いに対する「正解」は一つではありません。そのままカナダ(または海外)の大学に進む道も、日本に帰国して大学に入る道も、どちらも現実的な選択肢として存在しています。
日本人留学生の間では帰国後に日本の大学を目指すケースが多い傾向にありますが、それが唯一の道ではありません。
このページでは、「カナダの大学へ進学する」「日本の大学へ帰国進学する」の2つの選択肢を、公平に比較しつつ、日本に帰国する場合の進学条件・手続きなどに詳しく触れていきます。
どちらにもメリットとデメリットがあり、最終的には本人の目標・キャリア・家庭の状況によって判断が変わります。
選択肢①:カナダ(海外)の大学へ進む
カナダの私立高校からそのままカナダの大学へ進学するのは、教育の流れとして最も自然な選択肢です。高校時代に培った英語力・国際感覚をそのまま大学教育に活かせる点で、多くの面で合理的です。
主なメリット
注意点
- 学費・生活費が高額——留学生としてのカナダ大学の学費は年間CAD $30,000〜$50,000以上。生活費を含めると年間CAD $50,000〜$70,000規模になることも。日本の国公立大学と比べると大きなコスト差がある
- 日本への就職は工夫が必要——日本の大手企業の新卒採用は4月一括採用が中心。カナダ大学を卒業した場合、このサイクルに乗りにくく、海外採用枠・外資系企業・帰国子女採用などを意識した就活戦略が必要
- 日本語学術能力の退化リスク——長期海外滞在で日本語での読み書き・論理的思考力が弱くなるケースがある。将来日本での活動を視野に入れるなら意識的な維持が必要

2026年時点、北米はAIの台頭により大企業のレイオフが続き、失業率が日本より高い傾向にあります。AIによる悪影響は日本も同じですが、それ以上の少子化の進行により、若い人の就職は売り手市場の感が強い。ただしカナダの大学卒業後に日本へ就職という道も、もちろん可能です。カナダならボストンキャリアフォーラム(海外留学生や日英バイリンガルを対象とした、世界最大規模の就職・転職イベント)に参加しやすく、活用されている方も多いです。
選択肢②:日本の大学へ帰国進学する
カナダで高校を卒業後、日本の大学に進学するルートを選ぶ日本人は昔から多い傾向にあります。「将来は日本で働きたい」「家族の近くにいたい」「日本の大学でしか学べない専門がある」など、理由はさまざまです。
英語力・国際経験というアドバンテージを持って日本の大学に入れる点は確かな強みで、引き続き人気のあるルートです。
主なメリット
注意点
- 逆カルチャーショック——カナダの「自分の意見を発信する」文化に慣れた後、日本の大学・企業文化の「空気を読む」「出る杭は打たれる」という側面に違和感を感じるケースがある
- 日本語学術読み書きのギャップ——英語での論文・レポートには慣れているが、日本語での学術的な文章に苦労する帰国生は多い。小論文対策は早めに始める必要がある
- 入試制度の変化に注意——後述するように、帰国子女入試は近年縮小傾向にある大学もある。最新情報の確認が必須
2つの選択肢を比較する
| 比較項目 | カナダ(海外)大学進学 | 日本の大学への帰国進学 |
|---|---|---|
| 費用 | 学費+生活費で年間CAD $50,000〜70,000規模。高額だが奨学金・IB単位認定で圧縮できる場合あり | 国公立なら年間約100〜130万円。私立でも200万円台が中心。カナダよりコストを抑えやすい |
| 英語環境 | 大学まで英語環境が継続。ネイティブに近い英語力が自然に維持・向上する | 英語を使う機会は自分で作る必要がある。英語力が退化するリスクに注意 |
| 就職・キャリア | カナダ・北米・国際機関でのキャリアに強いが、北米は失業率がやや目立つ | 日本の新卒採用市場に乗りやすい。英語力があれば外資系・グローバル企業でも有利 |
| IBディプロマの活用 | 単位認定・奨学金優遇など直接的なメリットが大きい | IB入試で利用可能。認定大学は増加中だが、まだ限られる |
| 卒業後の選択肢 | PGWP取得→カナダ就労→永住権申請という道が開ける | 日本でのキャリアを基盤に、海外赴任・大学院留学などのキャリアパスも |
| 家族・生活環境 | 引き続き海外生活。家族との距離・孤独感への対処が必要 | 家族・友人との再接続。逆カルチャーショックに備えた心理的準備は必要 |
日本の大学進学ルート3パターン
カナダから日本の大学を目指す場合、主に3つのルートがあります。ただし、近年この領域は制度の再編が急速に進んでおり、かつての「帰国子女枠=入りやすい特別枠」という常識は通用しなくなっています。最新の動向を踏まえて整理します。
海外の学校に一定期間在籍した生徒を対象とした選抜。一般に「帰国子女入試」とも呼ばれるが、大学公式名称は多様化している(後述)。近年、総合型選抜への統合・再編が進行中。
IBディプロマのスコアや学修成果を活用した選抜。対応大学が近年拡大しており、東京大学・東京科学大学・一橋大学など国公立にも広がっている。IBの取得(見込み)が前提。
活動実績・志望理由・論理的思考を総合評価する選抜。海外経験者向け入試の受け皿として拡大中。英語で学位が取れるプログラム(早稲田・慶應・上智など)への出願もこの枠に含まれる。
かつては帰国生専用の独立した特別入試が多くの大学に存在し、「海外の高校を出ていれば比較的入りやすい」という側面がありました。しかし2024〜2026年度にかけて、早稲田・慶應・法政などの有力私立大学を中心に、従来型の帰国生入試の廃止・停止・総合型選抜への統合がドミノ的に進んでいます。現在は「帰国生だから優遇される枠」を探すのではなく、「海外での経験・実績を武器に、一般生も交えた総合型選抜でどう勝負するか」という戦略が必要です。
帰国生・海外就学経験者向け入試の実態
一般に「帰国子女入試」と呼ばれるこの選抜は、現在も存在します。ただし大学ごとに名称が分散しており、公式には「帰国生入試」「帰国生徒特別入試」「海外就学経験者入試」「外国学校出身者選抜」「外国教育制度利用」など様々な呼ばれ方をしています。「帰国子女入試」という言葉だけで探すと、最新の制度を見落とすおそれがあります。
一般的な出願条件の目安
条件は大学ごとに大きく異なりますが、おおまかな目安は以下の通りです。
| 条件・要件 | 一般的な目安(大学により異なる) |
|---|---|
| 在外期間 | 外国の学校に継続して2〜3年以上在籍していること。最終学年(高3)を含む連続在籍を求める大学が多い |
| 学校の種別 | 外国の正規学校(現地校・インター校)に在籍していること。日本人学校・補習校のみでは対象外となる場合がある |
| 英語資格 | TOEFL iBT・IELTS・SAT・IB等のスコアを求める大学が多い。ただし高スコアは「出願のスタートライン」であり、それだけで合格できるわけではない |
| 選考方法 | 書類審査・英語資格・小論文・面接を中心とする大学が多い一方、国公立大学や一部学部では学力試験・専門試験を課す場合もある |
| 出願時期 | 多くの大学で夏〜秋(8〜11月頃)に出願・選考が実施される。一般入試より早く動く必要がある |
主な大学の動向(2026年時点)
制度は毎年変わります。以下は大まかな傾向の整理であり、出願年度・学部によって状況が大きく異なるため、必ず各大学の最新募集要項を確認してください。
| 大学名 | 動向・備考 |
|---|---|
| 早稲田大学 | 複数学部共通の帰国生入試は2024年度を最後に停止。教育学部など一部で継続するが、政治経済学部は「グローバル(海外就学経験者)入試」、人間科学部は「FACT選抜」など、学部独自・総合型選抜に近い形式へ再編 |
| 慶應義塾大学 | 2025年度より文学部・商学部・看護医療学部・薬学部が帰国生対象入試を停止。帰国生の登竜門だったSFC(総合政策・環境情報学部)も2026/2027年度を最後に終了予定。総合型選抜への一本化が進む |
| 上智大学 | 「海外就学経験者(帰国生)入学試験」を継続。IB入試との併願にも対応しており、帰国生・IB生に対して引き続き積極的 |
| ICU(国際基督教大学) | 「総合型選抜〈4月入学〉外国教育制度利用(帰国生)」を実施。海外経験をリベラルアーツに活かせる学生を求める姿勢が明確で、帰国生に適応しやすい環境 |
| 立命館アジア太平洋大学(APU) | 「帰国生徒(海外就学経験者)選抜」と「国際バカロレア(IB)選抜」を実施。海外での学修・生活経験やIBディプロマを積極的に評価 |
| 東京大学 | 学校推薦型選抜の中でIBの学修成果を活用できる。ただしIBは出願資格そのものではなく、推薦要件への適合を示す資料の一例。外国学校卒業学生特別選考も別途あり |
| 東京科学大学 (旧・東京工業大学) |
2024年に東京医科歯科大学と統合し「東京科学大学(Science Tokyo)」に。「特別選抜Ⅰ(国際バカロレア選抜)」を実施している |
| 一橋大学 | 「外国学校出身者選抜」を実施。家族の海外滞在などにより外国で12年課程を修了した人などが対象 |
| 大阪大学・筑波大学 | 大阪大学は「帰国生徒特別入試」、筑波大学は「外国学校経験者特別入試」を実施。国公立でも海外経験者・IB系のルートが整備されている |
IBディプロマと日本の大学入試
IBディプロマを取得している場合、日本の大学入試でも活用できる機会が増えています。2013年に文部科学省がIBの普及を推進して以来、国内でのIB対応大学は急速に拡大しました。東大・京大・慶應・早稲田・上智など多くの主要大学でIBスコアを利用した出願が可能になっています。
IBと日本大学入試の詳細については、こちらの解説記事も参考にしてください。
進路別・準備のタイムライン
どちらの進路を選ぶにせよ、Grade 10〜11から動き始めることが重要です。Grade 12になってから考え始めると、書類準備・試験対策・出願のスケジュールが非常に厳しくなります。
「カナダに残るか、日本に帰るか」を漠然とでも考え始める時期。IBを取るかどうかの決断もこの時期。日本帰国を考えるなら、TOEFL・IELTSの準備も早めに開始。
志望大学・ルートを絞り込む。帰国子女入試を目指すなら、志望大学の在外期間・資格要件を確認。日本語小論文の練習開始。カナダ進学を目指すなら、IBスコア・英語資格の水準を確認し大学リサーチを本格化。
帰国子女入試の多くは夏〜秋(8〜11月)に実施。カナダ大学の出願は11月〜1月が主な締め切り。IBの最終試験は5月。全てのスケジュールが集中するため、Grade 11までの準備が質を決める。
カナダ大学は3〜4月に合否通知が届くことが多い。日本帰国進学の場合、帰国後の生活環境・住居・入学手続きを並行して進める。
進路を決める前に整理したいのは・・
- 5年後・10年後、どこで・どんな仕事をしていたいか——キャリアの方向性が日本中心かグローバルかで、進路の合理性が変わる
- 英語力をどう活かしたいか——カナダ大学ならそのまま活かせる。日本大学でも英語力は強みになるが、維持・活用は自分次第
- IBディプロマを取得しているか、取得見込みがあるか——IBの有無で日本大学入試のルートが大きく変わる
- 在外期間は帰国子女入試の条件を満たしているか——早めに確認が必要。条件を満たさない場合はIB入試・一般入試・総合型選抜での対応になる
- 家庭のコスト許容範囲はどこか——カナダ大学進学は日本大学より大幅に高額です。経済的な現実を踏まえた計画が必要
- 本人が日本に帰りたいか、カナダに残りたいか——最終的には本人の意思が最も重要。親の期待だけで決めると後悔につながりやすい

「せっかくカナダに来たのだから、カナダの大学に」と周囲に言われても、本当は日本に帰りたい学生もいるでしょう。逆に、親に帰国を勧められながら、実はカナダに残りたいというお子さん。どちらが正解という話ではありません。Grade 11になったらぜひ一度、進路について具体的に話し合う機会を作ってください。




